身近な植物の美を写しだす

はじめまして。尾崎 陽と申します。

身近に咲く植物を中心に写真を撮っています。北九州でフィールドワークの仕事をしたのがきっかけで、自然の素晴らしさに改めて感動しました。自然に関わる仕事ができればと思い、身近な植物の撮影を始めました。

幼少の頃は絵を描くことが好きで、将来絵描きになりたいと思っていました。 写真を撮ることは絵を描くことと似ているので、カメラには自然と興味を持ちました。学生の頃はカメラ屋でアルバイトをしたり、一眼レフカメラを借りて自分で撮りにいったりしいていました。

絵画と写真の違いといえば、レンズを通して物を映すことです。レンズを通して植物の姿を見ると、目では見えなかった意外な一面を発見できます。特にマクロレンズで見る植物は、普段見ている姿とは全く違う印象になります。どんなに地味で目立たない植物も、マクロレンズで見ると、思いもよらないきれいな姿を見せてくれます。カメラは人間の目では気がつかない姿まで写し撮ってくれます。 身近な植物で誰もが知っていて、道端に必ず咲いている植物といえば『エノコログサ』や『タンポポ』、『ツユクサ』ではないでしょうか。これらは雑草のように、庭先や道路わきなどに人知れず咲いています。 ここ2、3年くらいこれらの植物を中心に写真を撮ってきました。朝早くからかがみこんで写真を撮る私に、通る人は不思議そうに見ていきます。 『何か珍しいものでも咲いていますか?』とよく聞かれるので、タンポポやツユクサを撮っていることを伝えると、首をかしげて去って行かれます。やはり普段見慣れた小さな花には興味がわかないのでしょうか。写真に映るこれらの小さな植物がどんなに美しいか教えてあげたくなりました。

 エノコログサ

オオイヌフグリ

 ホトケノザ

写真展などでこれらの小さな花をマクロレンズで撮った写真をみて、『きれい!』と感想を述べておられるのを聞きます。でもきっとその方たちは、そのきれいな花が実は自分たちのすぐ足元にいつも咲いている雑草だとは気付いていません。私自身も写真を撮っていなければ気がつかなかったかもしれません。 写真を撮ることで、気づくことができたのなら、こんなに幸せなことはありません。 写真はただ物を映すだけではなく、目には見えない植物の美しさ、生命力まで見せてくれるのですね。

植物の姿がよくわかるような標本的な写真も撮っています。植物には1000以上の種類があり、少しでも多くの植物を写真に収めたいと思っています。イメージ写真とは逆の全体の姿、特徴をわかりやすく撮った図鑑のような写真です。野外で撮るのとは違って、地味ですが天候に左右されずに撮れるし、ストロボの光を調節したり、レフ板を置く位置を工夫したりと、勉強することはいろいろあります。

      ツユクサ全体(上)            ツユクサのアップ(下)

植物の写真を撮りながら、特別な花でなくても近くにこんなにきれいな花が咲いていることを知ってもらうきっかけになれば、との思いで撮影に臨んでいます。忙しい毎日の中で、ふと足元に咲いている小さな花を見て心を和ませることができれば、生活にゆとりも生まれ、生きる力にもなるのではないでしょうか。私もまだ気が付いていないたくさんの植物たちを、これからも撮り続けていきたいと思います。

 セイヨウタンポポ

コスモス

雪をかぶるセイヨウタンポポ

  サザンカ

アカツメクサの蕾

尾崎陽プロフィール

遺跡の発掘作業のアルバイトを始めたことがきっかけで、北九州の自然や歴史に直接ふれることができました。作業する中で次々に発見される遺物や遺跡を見て、大変感動し興味を持ちました。2003年、北九州市にある平尾台というカルスト台地のフィールドワークに携わることになりました。そこで初めてケイビング(洞窟探検)を体験しました。洞窟の美しさに感動し、2004年ケイビングチームに入会しました。自然観察センターの職員として、平尾台の自然や歴史、文化を学び、カルスト地形という特殊な環境に自生している植物にも興味を持ちました。最初は記録写真程度でしたが、写真に興味があったので、本格的に始めることにしました。身近な植物や生き物を中心に写真を撮っています。
これからも写真を撮りながら植物や生き物についてもっと勉強し、道端の植物で名前を知らないものはないというくらいに詳しくなることが今の目標です。

 

 

生命との出会いを求めて

春、夏、秋、冬と季節は巡り、今現在は、これから先の厳しい雪の季節を待っている。あちこちの撮影地で、今年の冬はどんな光景に出会えるのか、もしかして思いもよらないことがあるかもしれない・・・。長い年月、カメラを抱えてフィールドに出ているが、今でもこのワクワクする気持ちに変わりはない。

美しい日本の自然と、そこに生きる野生動物の生命の有り様に魅了され、写真家を職業として、早42年が経つ。亜寒帯の北海道から亜熱帯の沖縄まで、狭い国土ながら、生物の多様性には常に驚きと発見があり、決して飽きることのない面白さを実感している。それは、四方を海に囲まれ、山や森、川や湖沼と変化に富んだ自然のなかで育まれている動物たちの営みは、光や風、気温や時間、季節などあらゆる気象条件により、様々な姿を見せてくれる。心地よい春のなか、菜の花畑で喉をふるわせ力一杯に囀るオオヨシキリ。燃えるような紅葉の山の斜面で、ハイマツの実をむさぼるように食べる冬眠前のエゾヒグマ。凍てつく川の中で眠るタンチョウの群れ。それぞれが、それぞれの環境に調和してこそ、生命が輝き躍動する。単に動物の種類や撮影地ではない、生命の素晴らしさを求めて、思いのまま気の向くままに、時間を惜しむことなく前に進んで行く。「好きこそものの上手なれ」ではないが、昨日より今日、今日より明日と少しでも自然や動物たちを見る目を肥やしていきたいと肝に銘じながら撮影を続けている。これは、写真家を志してからずっと変わることはない。

 

東京から北海道の中標津に移り住んで丸11年が過ぎた。今ではすっかりこの土地に馴染み、居心地の良さを味わっている。庭には、アカゲラ、シマエナガ、ミズナラのドングリが豊作の年にはミヤマカケスやエゾシマリスがきたり、時折キタキツネが通り過ぎたりと、季節ごとに愛くるしい生き物たちが心を和ませてくれる。と言いながら、本州や沖縄への思いも強く、ことあるごとに出かけていく。足を止めることなく撮影三昧の日々を過ごしてきた今、新たな鳥の写真集を出版したいと、いろいろ構想を練っている。こんな時間を過ごせるのは、幸せこの上もない。

 

久保敬親プロフィール

1947年   新潟県佐渡市生まれ

1970年   拓殖大学商学部卒業と同時にフリーランスの写真家となる

2000年   東京から北海道中標津に移住  フォトライブラリ野生圏を主宰

日本写真家協会会員、日本野鳥の会会員

 著書  

「大雪山の動物たち」「キタキツネとの出会い」「シマリスの四季」(1980年、1983年、1984年 新日本出版社 )

「野生動物に出会う本」(1999年 地球丸)

「日本野生動物」(2001年 山と渓谷社)

「キタキツネ」「ラッコ」「エゾリス」「エゾシカ」「エゾヒグマ」 (2010年新日本出版社)

写真集

「鳥Birds」「野生Animals」(1989年、1992年 山と渓谷社)

「鳥影」「エゾヒグマ 残された聖域」「チップマンク」(1996年、1999年、1992年 山と渓谷社)

「野鳥賦」(1997年日本カメラ社)

「キタキツネの贈りもの」(1999年 新潮社)

「Peace, Peace, Peace」(1996年 七賢出版)

その他企業カレンダー多数                       

写真展

「鳥Birds」 (1989年 富士フォトサロン東京、大阪)

「野生Animals」(1992年 富士フォトサロン東京、大阪)

「動物記」(1998年 北海道滝川市美術自然史館)

「キタキツネの贈りもの」(1999年 富士フォトサロン東京、大阪、札幌)

「大自然からの贈りもの」(2000年 横浜ランドマーク タワーギャラリー)

その他

その瞬間に居合わせるということの難しさ

 はじめまして。六田晴洋と申します。昆虫を主に撮影しています。

生物系の大学を卒業したのち、フリーで昆虫写真家をやっています。写真は独学です。例にもれず昆虫が好きだからこの仕事を選びました。

 昆虫写真家になる前の大学生の僕は、毎日野山を駆けずり回り、昆虫を撮影する職業ってどんなに幸せなものだろうと思っていました。しかし、実際は室内での地味なスタジオ撮影が全体の半分以上を占めています。その割合は人によって異なると思うので、あくまで、僕の場合の話です。

 

 

スタジオ撮影では、卵が孵化する瞬間や幼虫が脱皮する瞬間、サナギから成虫に羽化する瞬間などを撮影することが多々あります。今回はそういった「瞬間」を撮る時の話を少ししようと思います。

 3年前まではごく普通の部屋だった自分の部屋を改造して作ったスタジオに、被写体であるチョウやカブトムシなどの卵なりサナギなりを持ち込み、背景や構図を作ったら、三脚にカメラをセットしてピントを合わせておけば、あとはのんびり原稿でも書きながら孵化や羽化の時を待ち、その瞬間が来た時にシャッターを押せば撮影できるわけです。室内で撮ることによって、狙った瞬間を撮影できる成功率はグンと上がるものの、百発百中かと言えばそうではありません。むしろそれでも成功率は半分以下ではないでしょうか。

 僕も食事をしなければならないし、トイレにも行かなければならない、風呂だってあります。その他にもその場を離れなければいけない用事がたくさんあります。それから、何と言ったって一番の強敵は睡魔です。今まで何度、睡魔に泣かされてきたことか。

 

たいてい撮るべき瞬間が来るのは、早朝や真夜中の場合が多いのですが、昆虫の体に変化の兆候が表れ始め、来るぞ来るぞとカメラを握りしめるものの、なかなか進まないまま1時間、2時間と過ぎていくと集中力も切れ始めます。次第にどうしようもない睡魔に襲われ、「ちょっとだけ・・・」と横になったら最後、次に目を開けた時には、その瞬間はすでに終わっていて、それまでの努力が全て水の泡となった現実を見せ付けられます。その時のむなしさと言ったらそれはもう半端なものではありません。なんだか愚痴みたいになってしまいましたが、そんなスタジオ撮影も嫌いではありません。それはそれで、野外での撮影とはまた違った面白さがあるのです。

写真説明 (上より順番)

1.アブラゼミ羽化

2.ナナホシテントウ蛹化

3.アゲハ孵化

4.アゲハ脱皮

5.アゲハ蛹化

6.キアゲハ孵化

7.キアゲハ蛹化

8.キアゲハ羽化

9.カブトムシ孵化

10.カブトムシ蛹化

11.ノコギリクワガタ羽化

 

六田晴洋プロフィール 

1986年アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれ。現在、神奈川県横浜市在住。日本大学生物資源科学部卒業。フリーの写真家として主にカブトムシやクワガタムシ、田んぼや身近な環境の生き物の撮影に励む。

・2012年の3月号か4月号の月刊誌「文藝春秋」の特集で12ページにわたり東北地方の自然や生き物を紹介します。

・2012年4月から読売新聞の夕刊科学面にて、毎週木曜に里山の生き物を写真と文章で連載予定です。是非ご覧ください。

六田晴洋のホームページ http://www.rokuta-haruhiro.com

 

自分一人ではできないこと

絵本を紹介する「絵本ミュージアム」というイベントが、僕の地元の福岡で毎年開催されています。昨年からは、一社の出版社に特化した展示を行っており、今年は偕成社の絵本が取り上げられました。

                                                 

 

 

 

僕はこの春、偕成社から『水と地球の研究ノート』というシリーズの5冊組の本(st16776~16786)を出版したばかりですが、その縁で編集部の方から、「絵本ミュージアムに行って、主催者にお会いしてみませんか。」と案内をしてもらい、先日出かけてきました。

         

 

絵本のイベントなので静かで閑散としたイメージを持っていたのですが、会場はまるでバーゲンセールのように多くの子どもたちで賑わっていることに驚かされました。一方で、絵本のイベントなので仕方がないことでしょうが、自然の本が大変に少ないことには、少々打ちのめされた心持ちになりました。

        

物心ついた頃から、本と言えば生き物の写真が掲載されているものしか見なかった僕は、それこそが王道だと思い込んでいたのに、実は自然の本がマイナーな世界であることを思い知らされたのでした。

人の自然観は幼い頃から長い時間をかけて養われるもの。だから、子供たちに自然を知ってもらうことが遠回りのようで近道であり、子供たちにいい写真を見てもらえば、いいページを見てもらえば、いい本を見てもらえば必ず何かが変わると信じて日頃努力を続けてきたつもりですが、それ以前に、まずは本を手に取ってもらう努力から始めなければならないことに、今更ながら気付かされたのでした。

絵本がそれだけの地位を確立したのは熱心な方々の努力の結果。絵本を知ってもらうためのイベントが各地で開催されています。

自然の本も同様に、もっと知ってもらう努力が必要だと感じたのです

ただしそれは、誰か一人ではできないこと。同じような思いを持つ出版関係者とどこかで連携ができればなと、思うのです。

 知ってもらう努力の他にも、写真や本作りも変わらなければならないでしょう。図書館にお勤めのある方から、「古い本の焼き直しみたいな本ばかりが出版され、版が大きくなって見やすくなったりするだけで、内容は簡素化されつまらなくなっているしまうケースが目立つ。」と言った指摘を受けたことがあります。 

 これまでに流通してきた定番のシーン、定番の本を否定するつもりはありませんが、同時に、新しい定番を生み出す努力が必要ではないかと思うのです。 

『水と地球の研究ノート』(偕成社)の第一巻『町の中の泉』(st16787)は、もう10年以上前から温めてきたテーマであり、その間のいろいろな機会に、いろいろな人に写真を見てもらいましたが、複数の方が、、「水中の写真が、宮沢賢治のやまなしを思い出させます。」

という感想を聞かせてくれました。また、大変に熱心に僕の水の中の話を聞いてくださるので、

「水辺が好きなのですか?」

と尋ねてみたら、

「自然というよりは宮沢賢治の文学が好きで、やまなしの舞台ってどんな場所なのかを知りたかったのです。」

 という答えが返ってきたこともありました。

自然は、自分で体験するのが一番ですが、時間的なゆとりや知識などの面で、必ずしも全員が体験をできるわけではありません。そこで今僕がチャレンジをしているのは、渓流やその水の中を知識として説明するわけでも、絵画として見せるわけでもなく、心の中で体験できるような本を作ること(st16788~16790)です。

やまなしは、小学校の教科書でも取り上げられる有名な作品ですが、渓流を知らなければ味わうことができないでしょう。やまなしや渓流は、僕が今取り組んでいることの例えですが、もしも興味をお持ちの方がおられれば、是非声をかけてください。

 

武田晋一プロフィール

1968年福岡県生まれ。山口大学理学部生物学科卒業。大学院修士課程を修了後フリーの写真家としてスタートし、主に水辺の生き物にカメラを向ける。

最新の著作は、ナショナルジオグラフィクのような大きな世界を、日本人の感性で撮影した『水と地球の研究ノート』(偕成社)全5冊セット

 

 

 

ミンククジラとの出会いを求めて、オーストラリアの海に通う

私は今まで海洋生物の魚やエビカニ、ヒトデやウニなどの棘皮動物、究極はプランクトンに至るまで、あらゆるものを撮影してきた。そして海を撮る者として、いつかは巨大なクジラを撮影したいと思うようになるのだ。

 

 

しかし、海の写真家なら誰もが撮影しているだろうザトウやマッコウの写真は世の中に溢れているものの、以外にもミンククジラについては写真が少ない。ザトウやマッコウはミンククジラに比べても巨大で、撮影でアプローチするにはそれなりにクジラへの知識が必要だし、危険も伴い、優秀なガイドやボートをチャーターしながら膨大な日数と撮影費用がかかる。いつかそれを行うには鯨のことをより詳しく知り、与えられた期間で必ず物にできるようになってからいくべきだろうと考えるのだ。

それは相手に無用なストレスを与えずに撮影する為でもあるし、海の食物連鎖の頂点であるクジラへの敬意でもある。一方、ミンククジラはザトウやマッコウに比べると一回り小さく(大きくても体長8m前後)、グレートバリアリーフの北部では確率高く群れが見られる。

地元の大学機関と連携したミンククジラに逢うことを目的としたチャータークルーズがいくつかあり、比較的短期間ではあるが、相乗りでもボートに乗ることができる。クジラの中では唯一、向こうから人間の側に遊びに来るフレンドリーなクジラで、私はそのことをミンククジラに逢いに行ってはじめて知るのだった。

 

 

ミンククジラは実は社会的に微妙な被写体だ。下手すると反捕鯨派か?とも思われるし、撮影先ではオーストラリア人のほか、世界各国からクジラ愛好者がミンククジラに逢いに来ているため、「何故、捕鯨国の日本人が来ているんだ!?」と白い眼で見られたりする。その中にはかの有名などくろマークのシーシェパード(以下SS)Tシャツを着て、明らかに私にアピールしている人も混じっていたりする。おそらくその人はSSのメンバーではないだろうが、Tシャツなどを購入してSSの活動を金銭的に応援している方なのだろう。そういう方々に混じって海に入るわけなので、もちろん滞在中は向こうから一切話しかけてこない。実際ここに撮影に来ている私のことをどう思っているかは定かではないが、何となくその行動や表情から察するに、あまり良い印象を抱いてはいないのは確かだ。彼らにとっては日本人=クジラの敵なのだ。


私は反捕鯨派でもないし、推進派でもない。中途半端な奴だと思われるかもしれないが、その答えを見つけるためには私は撮影に通って自分の目で見て知る事が大事だと思っている。実際、日本側が出すデータと、反捕鯨国が出すデータではあまりにも隔たりがあって、実際のところクジラが増えているのか減っているのかについてはわからない。クジラがどういう生き物なのかも知らないままに、感情だけで対立してその答えを出すべきではないと思うのだ。実際、クジラを知ることによってその答えが出るかどうかについても判らないが、私は自らすすんでクジラ肉を食べることは無い。ただ、めったに無いだろうが食卓で勧められれば、それを食べることも拒まないことも事実だろう。なにせ、私の子供のころは学校給食でも普通にクジラ肉が出ていたし、年に何回かは家庭でクジラ肉を食べていた馴染み深いものだ。今ではスーパーで日常的に手に入ることは無いし、他に食べるものはいくらでもあるので、わざわざクジラ肉を探し求めてまで買うほど、そんなにおいしい物という印象は実際のところ私にはないからだ。ただ、子供の頃の懐かしい味という記憶は私の一生から離れることが無いのも事実だ。
グレートバリアリーフ海域にいるミンククジラは正確にはドワーフミンククジラといって、日本近海に生息しているミンククジラに見た目も遺伝子的にも近く、南極海に生息するクロミンククジラとの中間的な存在だ。人が海に入ると、まずは興味津々に近づいてくる。最初はそれでも警戒しているのか、近寄ってきては通り過ぎていく行動をただ繰り返すだけなのだが、しばらくすると慣れてくるのか、目の前で泳ぎを留めては、私たちの眼をみつめてアイコンタクトをとったりする。そして、人の気づかないところでは驚くべき猛スピードで泳ぎ、戻ってきては、まるで「遊ぼうよ」といっているかのようにすぐ側でじっとしていたりする。時間を掛ければ掛けるほど心を解放してくれていく様は明らかで、手を伸ばせば届きそうな距離でホバーリングしたり、目の前で大切であろうはずのお腹を見せてくれたりすることもあるのだ。一度海に入れば、こちらが上がらない限りミンククジラはずっと遊んでくれるので、地平線に太陽が沈むギリギリまで、私はミンククジラの奏でる歌を聴きながらその美しいシルエットを写真に収めていくのだった。

 

峯水亮プロフィール
1970年大阪府生まれ。現在、静岡県に在住。1997年には西伊豆で7年間勤めたダイビングガイドの経験を活かし、フリーの海洋写真家に転向。主に海洋生物の生態写真を撮影し、近年ではクラゲやプランクトンの撮影にも特に力を入れている。またオーストラリアの海を第2の撮影フィールドとし、グレートバリアリーフに生息するミンククジラや2011年に世界自然遺産にも登録されたニンガルリーフや、南の海に生息するリーフィーシードラゴンなどの撮影に取り組んでいる。普段は月刊ダイバーで国内外の海の取材を行っており、国内では沖縄や伊豆を中心に、海外はインドネシア・マレーシア、タイ・フィリピン・オマーンなど東南アジアの海を広く撮影している。教育書や児童向け図書などにも多数写真を掲載。著書に海の甲殻類(文一総合出版),日本の海水魚466(文一総合出版)ほか、2012年には世界初の400種前後のクラゲやプランクトンを収録した(仮題)クラゲ大百科を平凡社より、サンゴ礁のエビハンドブックを文一総合出版から刊行予定。

峯水亮のホームページ  http://seacam.jp